御手洗潔が名探偵になる前の若かりし頃のエピソード集。
相棒は予備校生のサトル。御手洗潔はサトル相手に自分の海外放浪での出来事を饒舌に語る。
このところ京都に行く機会が多いので、舞台が京都と言うことでまず親近感がわく。
本書には
の4つのエピソードが収録されている。ネタバレにならない程度にほどほどに紹介。
1.進々堂ブレンド
御手洗に勧められて使った喉スプレーの味から想起される、サトルの故郷での甘酸っぱい想い出。本節はサトルの語りとなっている。
「あらゆる判断は、比較から生じる。材料が多いほど、その精度もあがるんだ」(P34)
少年が大人への階段を一歩上がったという典型的なエピソードだけど、自分はこんな経験したことないなあと。物語だから当たり前か。
2.シェフィールドの奇跡
ある定食屋で出会った学習障害を持つ店員から、御手洗がイギリス シェフィールドでのエピソードを語る。やはり学習障害を持った重量挙げ選手との出会い。
「定食屋の彼も、ギャリー(前述の重量挙げ選手)のように、全身でぶつかれる、頑張りの対象が見つけられたらいいなと思ってさ」(P88)
ぱっと見て分からなくても障害を持っている人がいる。そんな人の表面的な動作を見て見下したりしてはいけない。それはその人の個性と考えないと。自分だって劣っているところがあって、それも含めて個性だろうから。物語のスジとは違うけど、そんなことを思ってしまった。
3.戻り橋と悲願花
一条戻り橋を訪れたふたりが見つけたたもとに活けられた彼岸花から、御手洗のアメリカ ロスで出会った韓国人ビョンホンの戦時中の体験談を語る。
「そうしたら彼は、にっこりと微笑んでくれた。その時ぼくは、彼にとってようやく、あの嫌な戦争が終わったような気がしたよ」(P209)
太平洋戦争時の悲しい物語。ビョンホンが体験したようなことがあったとは思いたくない。
4.追憶のカシュガル
ふたりは春の嵐山を訪れる。そこで見た満開の桜から、カシュガルで出会ったウイグル族の老人とのエピソードを語る。
日本で桜というとソメイヨシノだけど、この木は種子を作らない。だから普通の植物のように種から繁殖せず、接ぎ木によって増えている(らしい)。
このことを初めて知ったのが自分としては収穫。これも話のスジからは外れてしまうけど。
本書は、脳内で情景描写がしやすく、とても素直に読める文章になっている。なので感情移入もしやすい。御手洗潔シリーズとしては、最初に読むといいかも。