つらつらと、つらつらと

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【読書メモ】数えずの井戸

重いビジネス書が続いたので、軽く小説にスイッチ。とはいえ、文庫版で731ページの大ボリューム、文章も重い。たかをくくっていたら、読み切るのに6時間以上掛かっていた。

 

さて本書は、いわゆる定番の怪談の江戸怪談である「番町皿屋敷」と、筆者の代表作の一つ「巷説百物語」シリーズの、今風に言うとコラボレーション。定番の江戸怪談とのコラボは、「嗤う伊右衛門」「覘き小平次」に続く3作目。ちなみに「嗤う伊右衛門」は「四谷怪談」、「覘き小平次」は「怪談小幡小平次」とのコラボ。

多くの日本人が知っている怪談の筆者独自の解釈と、一人称の心中の言葉を単文でつなげていく筆者の独特の文体が相まって、いつもの京極ワールドとなっている。なので、京極ファンにはオススメ。

ネタバレになるので詳しくは書かないけど、読後はお世辞にも爽やかとはいかず重苦しい、やりきれないものになるので、そういうのが苦手な人にはお勧めしない。

 

何かが欠けているという焦燥感をいつも抱えている、本書の主人公の直参旗本、青山播磨。

先を読みすぎて結局行動できない、もう一方の主人公で、「番町皿屋敷」では幽霊となって皿を数えるお菊。

幼少時から褒められることが幸せで、播磨に褒められたい、播磨の側用人柴田十太夫。

何も考えたくない、部屋住の遠山主膳。

などなど、登場人物の様々な心中、思惑、思い違いが、"数え−数えず"をキーワードにからみ合って、物語がすすみ、重苦しく悲劇的な幕切れ。

 

「番町皿屋敷」をモチーフとしているけど、独自の物語として完全に成立していて、仮に「番町皿屋敷」を知らなくても十分楽しめる作品。